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【短編小説】王将ラバーズ 彼と喧嘩した…。 原因は些細な事だ…。 「餃子はニンニク抜きが美味い」 「いや、ニンニクはいるやろ」 本当に些細な事…。 でも、ニンニクはいると思う。 これは譲れない…。 私は今、1人で「餃子の王将」に来ている。 ニンニクたっぷりの餃子のやけ食いだ…。 彼と付き合って2年…。 私達のデートはいつも「王将」だった。 気取った店よりもこのベトベトの床が好きだ。 注文した餃子が運ばれ、 ニンニクたっぷりの餃子を頬張ると 彼と「王将」で交わした くだらない会話が蘇る。 「王将って店舗によって味が変わるやんなぁ。 俺はやっぱり新世界店が一番美味いわ」 「なにゆうてんの? 新世界店は通天閣店から移転して ちょっと変わったわ…。 前の時は好きやったけど…。 私は絶対、でんでんタウンの王将やわ」 「俺な、夢があんねん…」 「どっ、どうしたん…急に?」 私の将来を決める言葉を もらえるのかと少し期待した。 「王将で待ち合わせして もう、到着する時 LINEで "着いたでー"   とかじゃなく "王手"   って連絡したいねん…俺」 「しょーもな!」 期待とあまりにもかけ離れた 彼の夢に 心の底からの「しょーもな」が出た。 「しょーもなくないわ! 王将にたどり着いて"王手"やで! めっちゃ上手い事言うたやんか! 将棋の"王手"やん?!」 「説明すな!わかってての"しょーもな"やん」 本当にくだらない会話…。 「ハァ~」 溜息と一緒に ニンニクの匂いが吐き出される…。 こんなニンニク臭い女を 彼以外、誰が相手にするだろうか…。 彼は今頃、私の事など気にせずにいるだろう…。 私は居心地が悪くなって椅子の 位置を変えようとした。 ベトベトの床に引っかかりスマホが落ちた。 ベトベトの床が今日は煩わしい…。 立ち上がり、 スマホを拾い上げると彼からのLINE…。 "王手" 振り返ると彼が立っていた。 私は震えた声で 「ほんま…しょーもな…」 「こっちの王将におったんかい! お前の好きな、でんでんタウン店行ってたわ」 「あんたの好きな…新世界店来たったわ…。」 強がる私…素直じゃない…。 ベトベトの床で足を滑らし、 彼の胸に飛び込んでしまった。 顔を上げると彼の顔が近い…。 「ごめん、私、ニンニク臭いよ」 「アホか、俺もでんでんタウン店で食ってきたわ …ニンニクたっぷり餃子」 そう言うと、彼は私にキスをした。 ニンニクの味がした…。 完

0010ヶ月前

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