ポール・リシェによる横に開いた骨盤と閉じた骨盤における鼠径部のひだの形状。体表に現れる皮膚の折りじわやひだは、解剖学の教科書にほとんど掲載されないため、今見ても新鮮。

1920年にリシェが記述した殿部の結合組織。剖出すると実際に存在していた。坐骨枝から起こって殿溝の皮膚および大殿筋の下縁に向かって付着し、この周辺の脂肪を除去すると堤靱帯様の組織として残る。解剖学用語は見たことがない。加齢によって殿部が下垂した状態の外形と関係しているかも知れない。

解剖学の動作は単純動作であり、複合動作である日常動作とかなり乖離している。学び始めた頃はなぜ内転外転といった姿勢が選択されているかよくわからなかった。記述は複合動作のような同時多発的な諸要素の羅列を苦手とする。

人体彫刻の胸郭を見ていると、吸息状態かな、と思うことがしばしばある。添付図1枚目:左、生態観察によるトルソ。右、ギリシャ彫刻のトルソ。2枚目:実線、呼息時(息を吐く)の胸郭。点線、吸息時の胸郭。

19世紀末〜20世紀初頭に出版された美術解剖学の教科書を見ていると当時の著者たちの熱気を強く感じる。コピー&ペーストではなく、新しい人体の形や見方を探索し、発見し、領域を広げていこうとする熱気である。