講習会タイトルに「イチから学ぶ」と記載させていただいているが、初級編という意味ではなく、一通り学ぶという意味。個人的には初級、中級といったクラス分けよりも、最初に全身を一通り紹介して各人の興味や学習の手がかりを与える方が良いのではと考えている。

「オススメの美術解剖学書は?」とよく聞かれる。私の答えは「実際に解剖を体験した著者が編纂した本」。おのずと数冊しかない。人体解剖を一通り体験していない講師が執筆した教科書は、歴史的に見て長期使用に耐えた前例がない。見ていても形態的な描写のポイントを外している。

リシェによる頚部の長さのバリエーション。頚の長さは骨格の形状と位置に依存するとしている。すなわち、下顎骨(オトガイ)が発達して怒り肩であれば頚部が短く見え、下顎骨が未発達でなで肩であれば頚部が長く見える。

背中の起伏が増える姿勢はミケランジェロの案だが、これは身振り手振りのジェスチャーとは別の表現に感じる。日常的な物語を表現する身振り手振りよりも、より複雑な人体の起伏を表現したいという欲求を感じる。

解剖学の正常構造を一通り覚えたら、次はバリエーションである。複数例の差異を観察すると、個人差に対応できるようになり、その構造の持つ面影が現れる。添付は女性の腰部と殿部における脂肪のつき方のバリエーション。大転子の高さに脂肪が蓄積する場合と、腸骨稜より上に蓄積する場合がある。