現代の解剖学は、医学・医療の発展のために死後自分の体を提供してくださった方々と、その家族や親しい友人の思いで成立している。このことを心に留めておくと、絵を描くための技術よりも踏み込んだ知見や興味が得られる。
イギリスでは、過去に植物の美術解剖学に関するモノグラフが出版されている。内容は、植物の描き方、種類、構造など。近年もサラ・シンブレットが"Botany for the artist"を執筆している。人体もそうだが、対象の構造を知ると、単に観察するよりも、目で追えるようになる。
人によって数が異なる種子骨とその発現頻度。発生する場所には概ね腱が存在する。成長過程で骨の一部が分離して生じた説と、腱の中に生じた説があるが、膝蓋骨(人体最大の種子骨)の研究では前者とする報告がある。
聞いたり、読んだりして覚えたことがその人にとっての常識を生む。その常識を自分の目と手を使って検証することで、常識はずれや非常識に気づき、自分の言葉で伝えられる知識となる。
解剖図は限られた方向から描かれる。例えば、筋の裏側は通常描かれない。見たことのない、もしくは見慣れない視点がある以上、そこに新構造が見出される可能性は高い。三枚目は臍(腹直筋鞘)の表(上)と裏(下)。