解剖学的構造を学び、自分の体に触れて確かめると、無味乾燥とした情報が実感を伴うようになってくる。体や顔を洗ったり、歯を磨いたり、頬杖をついたり、普段無意識に埋もれている日常動作たちが随分魅力的に感じられる。添付図、骨上の灰色の部分が概ね体表から触知可能な範囲。
毛流。美術解剖学では稀に体毛の記述がある。この他に毛髪の直毛や巻き毛具合、色彩など。添付はポール・リシェによる体毛の方向を示した図と毛根部の拡大図。体表にはいくつかの「つむじ」が見られる。
芸術家が筋を学ぶことで飛躍的に描写量が向上する点の一つは関節である。筋の起始と停止は関節を越えるため、関節周囲の起伏の内容がそれぞれ理解できるようになり、結果的に描写量が向上する。
筋間中隔。同一の長骨内の近位と遠位を渡すように付着する靱帯様の組織。骨間膜のように屈筋と伸筋の間に位置し、筋の付着部となっている。観察していない著者には重要でないが、観察した著者はきっと描くだろう。そこには手作業を介した要不要の判断がある。それが教科書の質の高さにつながる。
骨の上に筋を描き、その上に体表を描くと正確な人体が描けると考えている人がいるが、最初の段階から常に体表を意識していないと、骨や筋のボリュームがずれる。形の良い美術解剖図には体表の輪郭が描かれている。