解剖学は情報が継承されるため、解剖図もコピーされてきた。このことは応用解剖学の一つである美術解剖学でも同様である。今のところ、他の図を参照ないしコピーして描いた図で学問が更新されたケースを見たことがない。
よく、人体の内部構造のことを「気持ち悪い」とか「怖い」と言う人がいる。そういう人は、それらは自然が作り出したもので、自分の中にも存在していることを一度考えてみると良い。私は、自然が作り出し、自分や他人の中にある構造を排除したり否定する気にらない。
教員は人に伝えながら、その分覚えている。何度も繰り返すと、知ったつもりであやふやなことが明瞭になってくる。伝えるときに、相手の意見を汲み取れる姿勢でいると、すでに知った内容が硬直せず、更新される。
実物観察に基づかない解剖図や解剖学的知識が巷に溢れているが、実物を見たことのない読者にはその違いがわからない。実物を観察すると、解剖図のリアリティに気づくようになる。実物観察に基づく図の見分け方の一つは、触覚的な情報が含まれているかどうか。