教員は人に伝えながら、その分覚えている。何度も繰り返すと、知ったつもりであやふやなことが明瞭になってくる。伝えるときに、相手の意見を汲み取れる姿勢でいると、すでに知った内容が硬直せず、更新される。
実物観察に基づかない解剖図や解剖学的知識が巷に溢れているが、実物を見たことのない読者にはその違いがわからない。実物を観察すると、解剖図のリアリティに気づくようになる。実物観察に基づく図の見分け方の一つは、触覚的な情報が含まれているかどうか。
肋骨弓。第七〜十肋軟骨で形成され、外形に強く影響する。骨標本では残らないので、実物を見ないと描けないディテールの一つ。三枚目はWilhelm Tankの図だが、第十肋軟骨が浮遊している。第九、十肋軟骨の先端はしばしば連結しておらず、生体でも胸式呼吸を繰り返すと浮遊しているのが観察できる。